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Pinorso

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M氏のナポリ冒険記⑦~マエストロに怒られた日~

Ciao!

日々、作業に没頭し、徐々に任せられた簡単な仕事には慣れてきたある日、

私はマエストロのジャンニに激怒された。

一般的に、サルトリアでは基本ひとりの職人が1着を担当する。しかしもちろんサルトリア内では若いサルトやベテランサルトがおり、個々の力量にはばらつきがある。

仮縫い→中仮縫い→フィニッシュの順に学んでいくときに、やはり袖付けや衿付け、その他の本縫いがある「フィニッシュ」の段階は非常に多くの経験を要する。

ゆえにベテラン職人たちが袖付けや衿付けなどを行い、それ以外の「仮縫い」「中仮縫い」は、まだ「フィニッシュ」を習得していない職人たちが担当していることが多い。

このように一本縫い(一人でジャケットを縫い上げること)の道は非常に遠い。

私は皆の作業を見ていたが、工程が多すぎて、私には一体何なのか、これがどうジャケットにつながるのか、またどういった順序でジャケットが出来上がるかさえ全く分からなかった。ばらばらのパズルのピースをはめていくのだが、まったくイメージが繋がらない感じに似ていた。渡されたものをやって、できるようになってきたら、次の新しい課題をもらい、またそれをやる。

はやく学びたいという気持ちと1年というタイムリミットがある私は焦りに焦って、まだ目の前の作業に完全に慣れていないにも関わらず、次の仕事をマエストロ・ジャンニに要求した。

すると、ジャンニは手を止め、私の目を見て、大きな手振りをして言った。

「だめだ!お前はまだ来て2ヵ月しか経っていない、針も指ぬきもまだまだ上手く使えないだろ。サルトはやれば、明日、明後日にできるような仕事じゃない、数年、10年、一生続けて、学び続ける仕事だ。おれは8歳から続けている。」

『Piano Piano(ピアーノ ピアーノ:ゆっくりゆっくり)』学んでいきなさい。それがブラーボなサルトになれる道だ。」

イタリア語が十分でない当時の私にも言われていることははっきり分かった。言葉が刺さったが、何よりもジャンニの薄いブルーレンズの向こうの目は、真剣に、そして優しさをもって怒っていて、それは言葉よりも強く刺さった。

そして何度も口から出る「Piano Piano(ピアーノ ピアーノ)」はそれからより一層意識することとなった。