基本的にジャケットには毛芯が入っています。毛芯はジャケットの形を保つ役割を持っています。
前身頃全域に入る台芯(キャンバス)には、伸びの少ない植物性のものを。肩から胸にかけてはバス芯を入れています。バス芯は馬の尾の毛を緯糸に使い、横に対してのハリが強いのが特徴です。共にイタリア製です。
Pinorsoでは、二種の毛芯をジャケットの前身頃にいれています。
この芯を作る工程では、切り込んで、胸のボリュームを出した毛芯とバス芯を縫い合わせていきます。立体的に、ゆとりをもって”、点”で縫い付けていくことによって二つの芯がストレスなく動いてくれます。
後に、縫い合わせた毛芯を前身頃裏に据えていくため、毛芯は最終的に見えなくなります。表地裏に糊で張った接着芯でも静止画の見た目は変わらないと言えます。また接着芯の仕様では、毛芯仕様の「表地と毛芯の外回り分量を合わし固定しない縫製」とは、10分の1くらいの手間の違いでしょうか。
しかし、特に動作の中、そのジャケットの着心地や、馴染みやすさに大きく関わってくることになります。
動く生地の、美しさ、引っ張りのない生地のたわみ、柔らかさ。
特に、ナポリに言われる「軽い仕立て」とは、ジャケットの質量ではなく、動きのある、「生地にストレスのない着心地の軽さ」と言えるかと思います。
着ていない様な。
パジャマを着ている様な。
第二の皮膚。等
また、馴染みやすさとは、ある程度着用された後では当人の身体や動きに馴染み、より柔らかくなります。これは弊店のお客様もよくおっしゃられることで、私自身も目で確認した際によりそれを確認できるほどです。
あまり注目されない毛芯の扱いですが、最終的なジャケットの着心地、動き易さ、馴染みやすさに繋がってくるとても重要なものなのです。
Pinorso 孫谷