フルオーダースーツについて、その工程を大まかに説明すれば、①寸法を測り、②その寸法から型紙を製図し、生地を裁断する。そして、③仮に縫った服を組み、その仮縫いの着せつけを2度(仮縫い・中縫い)行う。この時にサイズ感、体形補正、デザイン修正などの調整し、お客様の理想的な姿を追求する服をつくっていく。
ただし、それは機械的なことだけでは成し得ない”感覚”が必要となる。人間の凹凸のある身体は人工物ではないからだろう。たとえば、陶芸や絵画などの芸術品が人の手によって線が生まれ造形ができる。それに人々が魅了させられることに近いのかもしれない。それと同様に、洋服の立体も線の集まりで出来ている。だから、身体に合う自然な立体をつくるため、生地にフリーハンドで自由な線を描く〔直裁ち製法〕。製作の中でも何度も線を手で引き直す。このカッティング(製図)にはセンスと経験が現れると言える。
また、縫製においてその線を立体的に組み上げる方法論がある。アイロンの熱と蒸気で生地に丸みをつける〔くせとり〕。それを人の目視=センスで微調整しながら手で縫う。これらは、味が出るとは別に、手縫いで無ければ成し得ない縫製技術なのである。こうして、職人(の目と手)によって1着約70時間をかけ、各人の最良の一着が出来上がる。