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Pinorso

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M氏のナポリ冒険記シリーズ⑥~サルトリアナポレターナの実態とは~

Ciao!ようやくマエストロと会うことができ、工房での作業に段々慣れてきた頃だった。

いつも作業をしていると、毎日多数の様々な人がやってくる。とても親し気にマエストロ・ジャンニとじゃれ合う人、接待室に案内されカフェを飲んでいく人、若い職人をいびりにくるおじさん。

そういった激しい人の入れ替わりの中で、徐々に来客の種類など、規則性が見えてきた。また。みな物珍しそうに私のもとへやってきて自己紹介ついでにいびりに来た。当時イタリア語、いやナポリ語はほぼ全く理解できなかったのだが声や表情、周りの反応の雰囲気から、よく来る人の名前やサルトリアにとってのどういった立場のひとなのかなど理解して覚えていった。

注文をくれるお客様は基本接待室にマエストロと移動するが、ジャンニの作業机の前に大量のジャケットを抱えて持ってくるおじいさんたちが多くいた。どうやらジャンニの抱えの職人らしい。彼らの多くはおよそ65~85歳でサルトとして大ベテランである。

ジャンニのもとへ資材を貰いに来るサルト

私はイタリア語、ナポリ語が十分に理解できるようになってから、彼らと話すのが大好きであった。昔のナポリはどうであったか、サルトにみなどのようになったのか等々多くの話をしてもらった。ジャンニを含めたこの世代のサルトの多くは学校に行かず(行けず)、地元の工房に8歳や10歳で通い始め、テーラーリングを学んでいったっと言う。

サルトリア・ジャンニ・ヴォルペでは、この大ベテランのおじいさんサルト達は、マエストロ・ジャンニからジャケットの仕事を貰い、家に持ち帰って作業をし、また持ってきて、歩合で現金の給料をもらうという働き方をしていた。来る度に3~5着のジャケットとそれに必要な資材(裏地や芯など)を持って帰っていた。工房での机の数や働ける人の数は物理的に限られているため、工房外にも労働力があることは仕事の効率に非常によく機能するだろう。

最年長サルト、エレオさん

特に土曜日の朝は工房外のおじいさんさんサルト達やフリーランスの生地屋(あまり生地は売りに来ないが遊びによくやってくる)で工房内がごった返し、とても騒がしく、忙しい。ジャンニはジャケットの補正の線の書き直しで忙しくし、机の周りで待つおじいさんサルト達に一人ずつ順に仕事を渡していった。

お昼になると来客が落ち着き、夕方になると、残っているおじいさんサルト達とジャンニがナポリ版ポーカーを作業台でおっぱじめる。このポーカーが見ている分にはとても笑える状況になる。ひとりがひとりをばかにし、ちょっとした手違いで叫び合いの口論になり、平和に終わるゲームは少ない。若いサルト達と僕はあんなに喧嘩になるならやらなきゃいいのにといつも思っていた。しかし悪口やスラング的な言葉遣いは、工房内に響き渡る会話から多く学べた。

土曜夕方のポーカーの様子

ほかの職人たちも帰った後の夜9時近くまで続くこのポーカーの様子を聴きながら隣の部屋で作業をする土曜の夜は、平日と違って賑やかで、楽しかったのを覚えている。